水晶振動子の故障率としてMIL-HDBK-217Fでは次の計算式が示されています。
λP=λb×πQ×πE(1/106) …1式
λb=0.013×(f)0.23 …2式
ここでλbとしてf=10MHzを、また
πQ=2.1(一般品)
πE=1.0(GB:一般事務所)
を代入すると、
λP=0.013×100.23×2.1×1=0.046(1/106)
が得られます。
2式では部品の基礎故障率λbが周波数の関数になっています。これは振動子の故障が振動回数に左右されること、つまり故障モードは疲労現象であると推定できます。励振レベルは1式には含まれませんが故障モードが疲労である以上、過励振は無視できない要因のはずです。しかし1式には設計者が考慮しなければならない項目としては品質レベルや使用環境のみで励振レベルは含まれていません。励振レベルは軽減すれば発振回路が不安定になり、安定して発振させるには指定値の100%の印加が必要になるので式からは除外されたのでしょう。使用周囲温度は環境パラメーターとして考慮されているようです。
一方、日本のJEITA-RCR-9102Bには故障率として0.096個/106Hrが提唱されています。この資料には材質や周波数が記載されていませんので直接は比較できませんが桁数としてはMIL-HDBK-217と同じと考えられます。またこの値は次のSAWフィルターと同レベルです。
SAWフィルターも同様にMIL-HDBK-217では3式のように規定されています。
λP=2.1×πQ×πE(1/106) …3式
πQ=1.0(一般品)
πE=0.5(GB:一般事務所)
これらの値を代入すると故障率としてλP=1.05が得られます。弾性波を利用していること、セラミック素材が主であること、などを考慮すると水晶振動子より故障率が高くなるのもやむを得ないかもしれませんが近年のスマートフォンなどへの採用状態を考えるとこれらの値も見直されることになるでしょう。
注)JEITA-RCR-9102BにはSAWとしての故障率のデータがありませんので機器の故障率の予測にはMIL-HDBK-217のデータを使用してください。
振動子の説明は今回で終わり、次回からは半導体について説明します。半導体については数多くのメーカーから詳しい解説資料が公開されていますので動作原理や構造などはそちらに任せて本シリーズでは説明に必要な最小限の解説とディレーティングや使い方に主眼を置いた説明にしたいと思います。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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