PFC回路ではないが類似の回路にディザー回路がある。この方式は国内の電源メーカーの特許と思われる。入力電圧はAC100Vから200Vまで可能な電源だ。この方式では一次側の電解コンデンサーに耐圧200Vの電解コンデンサーを使用できる。このため価格面では有利な回路だ。ディザー回路が故障した写真を図3に示す。
図3で一次整流の電解コンデンサーの耐圧が200Vを使用していることが分かる。中電圧の電解コンデンサーが使えるのでコスト的には有利だ。しかし、電解コンデンサーの容量がなくなると電解コンデンサー右側のスナバー回路のコンデンサーが焼損してしまう。ディザー回路はトランスと電解コンデンサーとトランジスタを直列に接続した回路になっているが、電解コンデンサーに高周波の電流を流すため電解コンデンサーが加熱され、容量が減少しやすい。容量低下後はサブ電源を生成するダイオードで過熱が生じ短絡破損を起こす。サブ電源の電圧が低下し、スイッチング動作が止まるので、ヒューズが切れるまでには至らない。
PFC電源でない通常のスイッチング電源でも火災を起こす可能性がある。それも高周波電流に起因している。電気機器の長期稼働で一次電源の電解コンデンサーの容量が徐々に低下する。その結果スイッチング電源の高周波電流が増加する。入力回路のノイズフィルターには通常はAC電源の50/60Hzの低周波電流が流れるので、ほとんど温度は上がらないが高周波電流が流れるとノイズフィルターが加熱される。テレビなどの縦型設置の機器では、ノイズフィルターのすぐ上に電解コンデンサーが実装されることがある。このためノイズフィルターの熱で電解コンデンサーが加熱され電解液の漏れが加速され、漏れた液が直下のノイズフィルターに流れ込む。一般家庭では電気機器の周辺のほこりが機器の内部まで入り込みやすく、ノイズフィルターが電解液で濡れているとほこりが付着する。この状態でノイズフィルターがさらに加熱すると、付着したほこりの中にプラスチックの繊維があると200℃程度で発火し、電気機器が焼損する危険性がある。ノイズフィルターが焼損した例の写真を図4に示す。
図4左は電解コンデンサーから漏れた電解液が、直下の部品やノイズフィルターまで流れて、ほこりが付着したノイズフィルターから発煙した写真だ。図4右はノイズフィルターをクリーニングした後の写真で、ノイズフィルターの金属部が高温になって変色していることが分かる。
このようにスイッチング電源では一次整流の電解コンデンサーの容量が低下すると高周波の電流が流れて、ノイズフィルターが過熱し電気機器が焼損する危険性が高い。過去記事(=絶縁シートの熱履歴が物語る、電源の不良原因)で紹介したノイズフィルターが過熱した写真を参考までに図5に再掲する。
図5左は電源の部品面で右は絶縁シートの写真だ。赤の矢印を入れたが絶縁シートが黒くなって最も変色している箇所が電源のノイズフィルターの位置であることがよく分かるだろう。このように一次整流の電解コンデンサーが劣化すると、高周波の電流が増えて、ノイズフィルターが過熱することがよく分かる。
今までに多くの電源の修理し、この経験で電源の安全な停止方法が分かった。それは、電源入力に過電流が流れてヒューズを切って電源の焼損を止めるのではなく、もっと早めに安全な状態で電源を止める方法だ。それにはノイズフィルターの温度を監視して電源を止めればよいのではないだろうか。例えば、温度ヒューズをノイズフィルターに付けて高温になった時に温度ヒューズを切って電源を停止すれば、電源部品が焼損する前に安全に電源を停止することができる。この場合は温度ヒューズと電解コンデンサーを交換すれば、安価に電源を修理することもできる。
今さら、スイッチング電源やPFC電源を否定することはできない。今やれるのは、電解コンデンサーが寿命となった時の電気機器の焼損事故を減らすことだ。
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