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デジタルオーディオ特性の基本 〜THD+N/ ダイナミックレンジ/ SN比/ 周波数特性〜デジタルオーディオの基礎から応用(3)(3/3 ページ)

» 2012年06月18日 08時00分 公開
[河合一,EDN Japan]
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「S/N比」

 S/N比は、「Signal to Noise Ratio」。日本語表示では信号対雑音比で、単純にフルスケール信号Sと無信号時のノイズ(雑音)Nとの比であり、下式で定義される。

SNR=20Log(S/N)(dB)

 測定には20kHz・LPFとAフィルタが用いられる。ダイナミックレンジ測定信号と異なり無信号時のノイズであるので、通常はアナログ回路の総合的な熱雑音やアナログ回路に回り込んだ周辺ノイズとの総合がノイズNとなり、量子化ノイズNqの影響は受けない。従って、16ビット量子化/24ビット量子化に関係無いものとなる。ただし、サンプリングレート・fsに対しては動作速度が高速になるに従い、スイッチングノイズなどの影響も受ける。コンバーターICモデルで異なるのは当然であるが、1〜2dB程度の特性変化がある。

「周波数特性」

 現代のデジタルオーディオ製品においては、周波数特性もその表現と定義が統一されていないので、一般消費者に混乱や誤解を与える一因となっている。アナログオーディオにおける周波数特性は、オーディオ再生回路のフラット応答帯域、例えば、20Hz 〜20kHz(±1dB)などで規定される。一方でデジタルオーディオでは、再生フォーマットの理論帯域幅を表示したものがあり、混乱の原因になっている。すなわち、理論帯域幅を再生周波数として表現しているケースがある。

 例えば、fs=192kHzの理論帯域幅は96kHzであるが、これを再生周波数として規定していることがある。しかし実際には、機器のポストLPF特性によって帯域が制限されている場合がほとんどであり、ポストLPFの特性を周波数特性として規定すべきである。このような誤解を与える表現は、SACD(Super Audio CD)プレーヤーでも見掛けられ、「再生周波数:100kHz」などと表示されている機器がある。しかし、これもSACD規格では50kHzにおいて−3dB となるポストLPF特性は規格化されているので、「再生周波数:100kHz」という表記は誤解を与えると言えよう。実際のポストLPFの周波数特性を表記すべきである。

図 図4 周波数特性の概念 (クリックで拡大)

 図4に理論帯域幅と周波数特性の関係を示す。理論帯域幅faはPCM信号のサンプリングレート・fsで決定され(fa=fs/2)、オーディオD-Aコンバータ出力としては、これは確かに再生可能な周波数である。実際には、DAC後段にはポストLPFが接続されており、当該ポストLPFの周波数特性(−3dBカットオフ周波数・fc)が再生帯域としての周波数特性となる。そしてLPF回路のアーキテクチャ(フィルタタイプ、次数等)で決定される帯域内リップルが規定値内となる周波数がLPFの信号通過帯域fbである。整理しよう。

再生信号帯域:デジタル信号のサンプリングレート・fsによる理論信号帯域(図中のfa)

規定例として、再生信号帯域:CDDA=20kHz、DVD=40kHz(ここでは理解のしやすさを優先してfsとfaの関係だけを説明したが、実際にはDAコンバーター内部のオーバーサンプリング・デジタルフィルタの特性で決定される)。

周波数特性−1:−3dBカットオフ周波数(図中のfc)

規定例として、周波数特性:22kHz(−3dB)

周波数特性−2:規定リップル内信号通過帯域(図中のfb)

規定例として、周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.5dB)。

正確な特性表示には上記の全てが規定されるべきである。実際には残念ながら、上記のいずれかだけ表示するケースが多いのも事実である。

その他の特性

 THD+Nやダイナミックレンジ、S/N比、周波数特性といった主要オーディオ特性は聴感との相関も高く重要な特性である。この他にも、幾つかの特性がある。ステレオ再生やマルチチャンネル再生では、チャンネルセパレーション特性もオーディオ特性として重要である。また、矩形波応答特性、ステップ応答特性、IMD(相互混変調歪み)特性、出力インピーダンス特性、負荷ドライブ能力なども、製品の素性をより正確に表わす特性と言えるが解説の都合上今回は割愛させていただくのでご了承いただきたい。


Profile

河合一(かわい はじめ)

 オーディオを専門とした評論家、ライター。日本オーディオ協会会員、AES(Audio Engineering Society)正会員。

 山水電気に1976年4月に入社。サービス部や技術管理部などでオーディオ機器および電子回路の設計、半導体評価といった基礎・応用技術の開発に携わる。1985年1月に日本バーブラウンに転職し、高精度リニアーICのアプリケーションエンジニアを担当した。業界トップクラスの性能のアナログIC(オペアンプ、計測アンプ、絶縁アンプ、対数アンプなど)や、コンバータICの応用技術と高精度アナログ信号処理技術を取得。1980年代後半以降、デジタル・オーディオ用コンバータICの専任となり、多くのデバイス開発に携わる。アプリケーションエンジニアマネジャーとして全世界の顧客対応を担当した他、フィールドアプリケーションエンジニアに対する技術トレーニングも実施。

 Texas InstrumentsがBurr Brownを買収したことに伴い、2001年1月に日本テキサスインスツルメンツに移籍。デジタル・オーディオ用コンバータ製品のアプリケーションマネジャー、オーディオ・エキスパートとしてシステム/アプリケーションの開発支援業務を幅広く担当した。これまでに、オーディオ関連の技術資料や技術記事を多数執筆。2009年6月にフリーランスの評論家、ライターとして活動を開始した。



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