今回は、英文データシートを“読まずに”……という連載の主題を完全に無視していきます! やはり、英語に真正面から向き合わなければならない場面もあるのです。しかし、案ずるなかれ読者諸君。データシートでよく使われる英語の表現や句さえ覚えておけば、わざわざ翻訳ソフトや同僚・先輩に頼る必要はなくなります。
春ですね!! 新卒社員が入社するシーズンですね。研修が終了後、各部署に配属され、読者のほとんどの方は、“先輩”という立場になられるのではないでしょうか?
そんなかわいいルーキーエンジニアから、「先輩、この英語の部分が分からないんですけど」なーんて質問されてしまうかもしれませんね。「他の先輩に聞いて」と返すのもアリですが、ちょっと格好悪いですよね。そろそろ重い腰を上げませんか? なーに、ちょびっとしたブラッシュアップですよ、センパーイ!!
今回は、連載の主題である英文データシートを“読まずに”を完全に無視していきます! それどころか、主題とは真逆です! だって、“読め”って言ってるんですから(汗)。しかし、やはり英語に真正面から向き合わなければならない場面もあるのです。
というのも、第8回でお話した通り、英文のデータシートは全てが日本語化されるとは限りません。どれを日本語化するかは半導体メーカーが自社の都合や事情で決めるので、ユーザー側としては自分が必要な製品のデータシートやアプリケーションノートは英語版しかないというケースが多いのです。運良く日本語化されるとしても、時間がかかります。
まったくもって、ユーザーからしたら不愉快千万ですよね(ごめんなさい!)。そうはいっても、皆さんが担当する設計プロジェクトは、この実情にお構いなしに進んでいってしまいます。英語の苦手なエンジニアならば、もうお手上げにするか、GoogleやYahooなどの翻訳ツールに頼るしかないですよね? 筆者も同じように、現職である外資の半導体メーカーに入社した当時は、英語が読めず、妄想と直感、そして翻訳ツールで混沌としながらもなんとか理解しておりました。
しかし、案ずるなかれ読者諸君。データシートでよく使われる英語の表現や句さえ覚えておけば、あなたも、わざわざ翻訳ソフトや同僚、そして先輩に聞く必要もないのです。
それではここで、よく使われる単語や句のレパートリーを紹介します!
第1回で解説した通り、英文のデータシートでも、英文を読み込まずに単位や数字を追っていけば、その製品のだいたいの特長を把握できます。しかし、その数字の横に書いてある英語の意味を知りたい……Good!! 前向きな欲張りだと思います。そこでまずはこれです。数字の横に書かれている句は、だいたい下記のような言葉が多いです。
「Programmable」や「Adjustable」については、読者の皆さんも意味はご存じかと思います。また「Between」も、辞書で調べた通りの意味になりますので、ここではスルー。では、「down to」は、どんな意味何ですか?逆の「up to」は? 実は、これらは「minimum(最小)」「maximum(最大)」みたいな意味なんです。図で表わすとこんなイメージになります。
言葉で表現すれば、「down to xx」は、「あるレベルからどんどん下に向かっていって、最低でxxまで対応できます」というニュアンスですね。「up to xx」も同様に、「あるレベルから上に向かっていって、最大でxxまで対応できます」という意味になるわけです。downかupかで下に向かうか上に向かうかが分かり、toの後に来るxxがその到達値になるわけです。
なお、実際のデータシートでは表現にばらつきがあって、例えば「Programmable from xx MHz」とか「Minimum : xx MHz」としたり、「Programmable down to xx」という表現が使われたりする場合もあります。
同じ意味で使われる言葉としては、他にも「at least」があります。leastという単語は、デジタル設計で使用される「LSB」という用語(Least Significant Bit:最下位ビット)の「L」の意味で馴染みがあると思います。このleastという言葉は、“量や大きさが最小”という意味です。例えば、「xx at least」は「最低xxまで(なのでそれ以上にすべき)」という意味になります。あなたが友人や同僚に言ってしまう“サイテー!!“という語彙とは違いますので、ご注意を。ちなみに、「xx at least」の反対は「xx at most」です。「最大xxまで(なのでそれ以下にすべき)」という意味になりますが、あまり多くは使われません。
さて、数字にくっつく文章表現として他に多いのは、値の範囲を示す「〜以上」、「〜以下」です。英語では、「more than〜」「higher than〜」「greater than〜」とか、「less than〜」「lower than〜」とあるいは「less or〜」「lower or〜」などの表現を見掛けたことがあると思います。昔、学校で英語を習った時には、「more thanは、〜を超える」、「more orは、〜以上」、「less thanは、〜未満」、「less orは、〜以下」といった具合に、細かく覚えたかと思います。
もちろん、これらを正確に覚えるのは大事なんですが、電気設計する上では、回路の定数や公称値に範囲や誤差がつきものなので、そこまで正確に覚えずとも、more/higherという英単語が出たら「以上」、less/lowerなら「以下」とイメージしておきましょう。そう、単純に覚えればよいのです。
例えば、「この抵抗値は10kΩ未満で設計してください」と「この抵抗値は10kΩ以下で設計してください」。誤差を考慮すれば、10kΩ「未満」も「以下」も実際の値はほぼ変わらないですよね? 皆さんのご想像通り、この場合は抵抗誤差のマージンを踏まえても9k〜9.5kΩで設計するのが当たり前です。わざわざ9.99kΩを選んで、ぎりぎりの設計にしてリスクをとりたくはないですもんね。
「以上」「以下」を表わす英語は、まだ他にもあって、例えば「above」「below」という言葉が挙げられます。
そうした英単語を表にまとめると下記のようになります。
これらの表現は、いずれもよく使用されます。試しに、DC-DCコンバータIC「MAX17501」のデータシートの中で、この表にある単語がどのくらい使われているのか調べたところ、次のような結果になりました(PDF形式のデータシートが開きます)。
ちなみに、「以上」「以下」があるなら「等しい」もあるはずじゃないか、と突っ込まれるかもしれません。もちろんそれに相当する「equal to」という英語はありますが、電気設計の業務ではあまり使用せず、半導体製品のデータシートで多用されない言葉なので、習得するのは後回しでよいと思います。
赤羽 一馬(あかばね かずま)
1995年に日系半導体メーカーに入社。5年間にわたって、アナログ技術のサポート/マーケティングに従事した。2000年に外資系アナログ半導体メーカーのマキシム・ジャパンに転職。現在は、フィールドアプリケーション担当の技術スタッフ部門でシニアメンバーを務めている。
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