いよいよ最終回です。本連載ではこれまで、英文データシートを起点にしてお話をしてきました。つまり英語から日本語へ、という流れです。今回はそれとは逆に、「この日本語の専門用語って、英語でどのように伝えるの?」という場面で使えるテクニックを紹介します。
約1年間にわたってお届けしてきたこの連載もこれが最終回です。英語はもとより、日本語の作文も決して得意ではない私が、このような連載を執筆する機会をいただけたのは、とてもうれしく、また光栄なことだと思っています。
この1年間、記事のネタをいろいろ考え続けました。また、連載がスタートした初期のころは、原稿を書いては修正し、書いては修正しと、担当の編集者さんからフィードバックを受けながら反復作業を繰り返してなんとか仕上げていました。それも今回で最後です。
それでは、最後のお題に入りたいと思います!!
本連載ではこれまで、英文データシートを起点にしてお話をしてきましたが、今回は逆に「この専門用語って、英語でどのように伝えるの?」という内容です。海外の半導体メーカーの製品を検討していると、たまにありませんか? 「この製品の技術的質問は、日本語サイトがまだできていないので、英文のみでお願いします」というケースです。
そこで今回お伝えするのは、日本語データシートを起点にし、英文データシートを参照することで英語の表現を学ぶというテクニックです。実は、私も結構この方法で英語の言い回しを勉強してきました。日本語のデータシートが提供されていることが前提になる方法ですが、1つの学習ツールとして、覚えておいて損はありません。
例えば、パワーMOSFETを外付けするタイプの同期整流型DC-DCコンバータICを使って電源を設計する際に、「効率が出ないんだよ〜。貫通電流が流れて損失が多くなっているみたいなんだよね」という場面に遭遇したことがあるかもしれません。
はて、貫通電流って、英語では何と言えばいいんだろう? ……本連載にこれまでお付き合いくださっている読者なら、このような感覚や興味を持っていると思います。
試しに、インターネット上で無料で使える「Yahoo!翻訳」を利用してみましょう。「貫通電流」と入力して翻訳してみると、「Penetration electric current」と返ってきます。……これって大丈夫? 「Penetration」を調べてみると、「進出」、「浸透」とか「看破力」という意味でした。果たしてこれで、英語の話者に正しく伝わるのでしょうか?
不安なので他の翻訳サービスも使ってみます。「Google翻訳」では、「Through current」と出ました。うーん、確かにスルーはするんですけど(しゃれじゃないですよ!)……何か足りないような気がします。最後に、英語の学習情報サイト「スペースアルクのオンライン辞書」で調べてみましょう。……うっ、載ってない!!
これら一般の日英翻訳サービスは、電気分野の専門用語については心もとないことが分かりました。では、半導体メーカーの日本語Webサイトにある検索機能で、「貫通電流」をサーチしてみましょう。すると、いくつかの製品でヒットしました。どうやら日本語のデータシートがありそうです。試しに、MOSFETドライバICである「MAX8702」と「MAX5048」について、日本語の製品情報ページを開いて、「貫通電流」という言葉を探してみましょう。
MAX8702の日本語ページの方に、貫通電流という言葉がありました。これを英語に切り替えて見ましょう。半導体メーカーのWebサイトは、企業によって多少の違いはありますが、表示言語を選んで切り替えられるようになっています。この例では、第8回目で紹介したように、画面の右上にある言語選択のメニューを開いて、「日本語」から「English」に切り替えれば表示が英語化されます。すると、さっきの「貫通電流」という言葉に対応する英文が2つ見つかりました。1つは「shoot-through currents」、もう1つは「shoot-through」でした。第10回目や第11回目に紹介したケースで分かる通り、英語では同じ意味でも複数の言い回しがあります。貫通電流に対応するこれらの英語も、同じようです。
他の製品でもこの言葉が同じように使用されているか、確認してみましょう。
MAX5048Cでは、日本語の製品概要のページに貫通電流と記載がありました。先ほどと同じ手順で英語化すると……「shoot-through」と表現されています!!
ということは、貫通電流は英語で「shoot-through」あるいは「shoot-through current」のどちらでも大丈夫ですね。あー、スッキリ。
今度は、単語がもっとたくさん連なった、もう少し長い句でも同じように調べられるのか、試してみましょう。そうですね、最近、マイコン制御のアナログICも多くなってきたので「〜のデータをレジスタに書き込む」というのを英語でどう表現するのか、調べてみましょう。
とりあえず、半導体メーカーのWebサイトにアクセスし、そこに用意されている検索機能で「データをレジスタに書き込む」で検索してみましょう。筆者が所属するMaxim IntegratedのWebサイトで試してみたところ……う〜ん、ノーヒット。残念!
それでは、助詞を抜いて、「データ レジスタ 書き込む」でもう一度検索してみましょう。おー! かなりのヒット。類似している文章を探すと……経過時間カウンタIC「DS1318」の和文データシートの中に近い文章があるようなので、早速クリックして、データシートを検索してみましょう!
もちろん、今、検索結果として出てきた表現「データをクロックレジスタに書き込む」をそのままPDFのファイル内検索でキーワードとして使います。すると、11ページに該当する部分を見つけました。
次に、この製品の英文データシートを見てみましょう。両者を突き合わせると、英語では「write data to the clock registers」と表現されていることが分かります。
インターネット上の翻訳サービスで調べ切れないような専門用語についても、バックアップとしてこのような翻訳“手段”を持っておけば、多少時間はかかりますが、理解が深まると思います。
本連載の記事をこれまで書いてきて、あらためて思ったのですが、英語の苦手なエンジニアが英語を避ける理由は、それが「時間と労力がかかる面倒なことだから」ではないでしょうか。私もそうでした。
しかし、英語も電気と同じで、分かってしまえばこっちのものです。英語は、“怖い”ものではなく“単なるツール”です。日本語だって同じ“ツール”。母国語である日本語で物事を伝えられなければ、外国語である英語ではとうてい伝えることができません。そのような感覚で、今後“英語=ツール”をうまく使ってデータシートを理解してもらえればと思います。
もちろん、分からない英語に遭遇し、時間を要する場面がたくさんあるでしょう。そこは、本連載で今までに紹介した“手法”をうまく活用し、できるだけ効率よく仕事を進めていただければ、私も筆者としてとてもうれしく思います。
皆さん、今までこの連載にお付き合いくださり、誠にありがとうございました!!
赤羽 一馬(あかばね かずま)
1995年に日系半導体メーカーに入社。5年間にわたって、アナログ技術のサポート/マーケティングに従事した。2000年に外資系アナログ半導体メーカーのマキシム・ジャパンに転職。現在は、フィールドアプリケーション担当の技術スタッフ部門でシニアメンバーを務めている。
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