容量センサーのアナログ・プリアンプ回路における低域遮断周波数問題を、エレクトレット・バイアス・センサーについても考える。このセンサーは外部分極電圧を必要としないので、電源設計が簡単になる。オペアンプに単一利得の正電圧帰還を適用することによって、バイアス抵抗の増倍係数をさらに大きくできる(図3)。
図3の回路で完全な単一利得の正電圧帰還を実現するためには、抵抗R3の値をゼロにすべきだ。しかし少々複雑な問題が生じる。直流不安定性(双安定フリップフロップ動作)を防ぐため、正帰還回路には直流の経路が存在してはならない。コンデンサーC2は、この直流経路を阻止する。具合の悪いことに、C2は回路の伝達関数にポール(極)を1個追加する。この影響を回避するためには、C2の値を極めて大きくしなければならない。
抵抗R1の増倍係数αは通常は相当に大きな値(理論的にはオペアンプの開ループ電圧利得に等しい)になる。これを少し犠牲にしても構わないならば、抵抗R3をゼロにしないで回路に減衰を与えるという条件の下でC2の値を数けた小さくできる。なお抵抗R2は、オペアンプの非反転入力に正しい直流電位(静止動作点条件)を印加するために必要となる。
安定性や高調波特性、それからステップ信号応答について回路を詳細に解析するには、長い時間を要する。一般的なアクティブ・フィルター理論のルールをベースにして解析するか、SPICEのような普及しているシミュレーション・ツールを用いて回路動作を解析することになる。
受動部品をうまく選ぶことによって、低域遮断周波数における回路動作を制御できる。例えば、平たんな周波数応答や平たんな過渡応答を得られる。あるいは、ステップ入力応答におけるオーバーシュートをあらかじめ求めた値に設定できる。
図3の回路だと、センサーのすぐ近くに部品を実装するために大きな面積が必要となる。リード線も3本ではなく、4本を必要とする。一方で図1と図2の回路に比べると、外部負荷の影響を受けにくい。オペアンプの静止動作点における直流電流は両入力ともにできるだけ低くしなければならない。その点ではCMOSオペアンプが最適である。
図3のCMOSオペアンプにはスイス STMicroelectronics社の「TS271」を使用した。低域遮断周波数は7Hz、ステップ応答のオーバーシュートは0%。コンデンサーC2の値を大きくし、抵抗R3の値を小さくすることによって、容易に0.1Hz以下の低域遮断周波数を実現できる。
図3の回路は、微小電力用途に好適である。消費電力が少ないCMOSオペアンプと標準的な受動部品を利用することによって、1個のコイン型リチウム電池で10年間動作する。回路の高域遮断周波数およびダイナミック・レンジは、オペアンプの特性で決まる。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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