ここまでの作業で、電子部品のデバイスモデルを含む電源回路のデータと、アプリケーションボードの配線レイアウトのSパラメータを統合することができた。この統合後のデータをキーサイトでは「サブサーキット」と呼んでいる。
サブサーキットを使えば、電源回路に関するさまざまな解析が可能になる。解析を実行するには「テストベンチ」と呼ぶ機能を使う(図4)。テストベンチとは、仮想的な実験環境のことであり、その実験の対象がサブサーキットになる。ADS上でこのサブサーキットに対して、仮想的な信号源や負荷などを接続することでテストベンチが作成する。
このシミュレーションキットの中には、電源回路のスイッチング動作(電圧スパイクの解析)、伝導ノイズ、放射ノイズ(EMI)の解析に向けたテストベンチがあらかじめ用意されている。ユーザーは、これらのテストベンチにサブサーキットを設定するだけで上記の解析を簡単に実行できる。この3種類以外の解析が必要な場合は、ユーザーが独自にテストベンチを作成する必要がある。
こうした解析を実行すれば、実際にアプリケーションボードを試作する前に、さまざまな特性を把握できると同時に、設計の問題点を発見できる。例えば、スイッチング動作の解析を実行すれば、スイッチングノードでの電圧/電流波形を確認できるため、電圧波形のリンギングの大きさや各配線の電流密度などを把握できる(図5、図6)。さらに放射ノイズや伝導ノイズの解析を実行すれば、その規制値「CISPR25」をクリアできるかどうかを確認可能だ。
こうした解析でアプリケーションボードの問題を発見すれば、すぐに設計の修正に取り掛かれる。そして修正を加えたら、再度、解析を実行できる。設計の修正を施し、解析を実行して、特性を確認。こうした設計ルーティンを高速に回すことができるため、アプリケーションボードの配線レイアウトを短時間で最適化できるようになる。
SiCパワーMOSFETを採用した電源回路の回路シミュレーションが抱える2つの課題。1つ目の課題であるデバイス・モデルの精度については、前述の通り、本連載の前回、前々回の記事で解決策を提示した。そして、もう1つの課題である配線レイアウトのモデリングについては、本稿で解決する方法を説明した。
今後、SiCパワーMOSFETを採用した電源回路が増加していくだろう。同時に、電源回路の設計現場でも、上記で示したような配線レイアウトを考慮した回路シミュレーターの活用が当たり前になっていくはずだ。
【著】
・佐々木広明(キーサイト・テクノロジー株式会社グローバルソフトウェア&サービス営業本部EDAアプリケーションエンジニアリング部)
・橋本憲良(同)
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