再び図4を基に平衡状態にあるDC/DCコンバーターの動作条件を考えます。
チョークLに流れる電流ILの変化は、
①オン期間中はΔI(ON)が流れ
②オフ期間中はΔI(OFF)が流れます。
前記で説明したように、この状態が定常的に繰り返されますのでΔI(ON)=−ΔI(OFF)=ΔIになりますがこの式はチョーク電流ILの変化量(波形のテーパー部)だけを表しているに過ぎません。
ここでは入出力の電力について考え、各部の波形を計算します。
以下の計算ではIinは平均入力電流、Ioは平均出力電流としますがコンバーターが扱う電力は各素子の損失がないものとすれば「入力電力Pin=出力電力Po」が成立します。
つまり、Pin=V×Iin、Po=Vout×Ioとした時、4式からVout=V/(1−δ)ですから
となります。この6式のIinは図4の電流図からも分かるように1周期を通じてチョークL1に流れる平均電流です。図中でI(ON)はオン期間中にチョークL1やFET-SW(S1)に流れる電流であり、I(OFF)はオフ期間中にチョークL1やDi-SW(S2)に流れる電流です。これらの関係から7式が成立します。
電流変化分ΔI(ON)、ΔI(OFF)はLの式(ΔI=(E/L)×Δt)から分かるように共に時間的に直線変化しますのでΔIの図式中点が平均値Iinと交差します。
ですからチョーク電流ILはIinを中心にして
まで変化します。したがってチョークL1の飽和電流値Isatは最大の電流(Iin+(ΔI/2))以上に設定します。
このIinとしては負荷電流の最大値だけではなく、回路の短絡保護回路が動作する時のバラツキも含みます。
今回は入力電圧より高い出力電圧が得られるステップアップコンバーターの動作について説明しました。その結果、出力電圧Voutは1/(1−δ)に比例し、また昇圧比が高くなるにつれてコンバーターの利得が高くなることも説明しました。
次回はコンバーターに使用する部品の定格について説明します。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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