なお、この機器はドイツで製造されているので、同等の可変抵抗を入手して交換するのは難しい。調査した範囲をまとめた資料を依頼者へ送り、可変抵抗が摩耗している可能性が高いことを連絡して修理品を返却した。依頼者はメカニカルな修理のプロなので、継続の修理を任せた。翌日、依頼者から以下の連絡があった。
修理品受け取りました。早速確認してみた所、回転は良くなっていたものの、シビアなコントロールが出来ず、やはり仕事で使用するには不具合が有ります。早速御指摘頂いたコントローラー部分をバラして見ました
分解したコントローラー部分の3枚の写真を図3に示す。
非分解構造のコントローラーでしたが、バラして洗浄して組み上げたところ、滑らかにコントロールできるようになり、完璧な状態に修理ができました。最後に1枚目の画像の4つ足が出た板状のスプリングを装着するのが非常に困難でした。4つの足を押さえながら右方向に回転させるようにスライドして引っ掛ける構造で、途中で心が折れそうになりましたが、無事に元に戻す事ができました
という連絡だった。
図3の中央は可変抵抗の摺動部と思われ、右図の奥に黒いごみが見える。これは可変抵抗の接触部の摩耗か抵抗部が削られた跡だろう。筆者もここまで分解された可変抵抗の写真を見るのは初めてだった。部品の型名が分れば手配して、新しい部品に交換すれば良いが海外製の部品で型名は不明なため、可変抵抗も分解して洗浄したようだ。さすがにプロの仕事といえる。
今後も同様な不良が出ることが予想されるので、可変抵抗の交換を楽にするためメーカーの日本の問い合わせ窓口に情報の開示を求めた。
KAVO EWL K11の修理を依頼されています。レバーを操作した時の回転数が比例して動作しないので、可変抵抗が劣化しているようです。代替の可変抵抗を探していますが、可変抵抗の型名を教えていただけませんか?
回答を待っているときに、依頼者からボリウムの側面の写真が届いた。また今まで入手した写真をもとにWebで類似のボリウムを検索してみた。図4に示す。
図4左の取り外した可変抵抗には10K**10% 9506とシルクされていた。10KΩ±10%で1995年の6月製造と思われた。図4右は日本製の類似品の可変抵抗だ。この部品なら簡単に入手できる。
3日後にメーカーの日本代理店から以下の返事があった。
KAVO EWL K11は20年〜30年前に販売されていた製品です。こちらの製品は2012年にメンテナンスサービスサポート業務と修理部品の供給を終了させていただいております。可変抵抗についても供給終了となっておりますのでご了承くださいますようお願い申し上げます
予想した通りだったが、要するに開示できないということだろう。EUの本社へ問い合わせできないのかもしれない。しかし、現場で使われている機器でもあり、本来はサポート中止した時点で消耗品の情報開示を行うのはメーカーの責務と思う。
修理の仕事では90%程度の動作ができれば、あとは依頼者に仕上げの仕事をしてもらい完璧に仕上げてもらっている。修理者と依頼者の情報の交換やお互いの技量が十分でないとエンドユーザーが満足せず、修理代ももらえなくなる。修理の仕事は修理者と依頼者のお互いの技量を上げることと信頼関係が重要なことを、今回の修理を通して強く感じた。
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