アジレント・テクノロジーの「N9010A EXAシリーズ」は、測定周波数の上限が44GHzと高いミリ波対応のスペクトラムアナライザ。ミリ波デバイスの設計や検証に十分使える性能を実現しつつ、従来品に比べて価格を大幅に下げた。
アジレント・テクノロジーは2012年5月、「高精度ミリ波測定を身近に」を製品コンセプトに掲げたスペクトラムアナライザ「N9010A EXAシリーズ」を発売した。特徴は、ミリ波デバイスの設計や検証に十分使える性能を実現しつつ、従来品に比べて価格を大幅に下げたこと。
44GHzにおける表示平均雑音レベル(DANL)は−149dBm/Hz、位相雑音は−106dBc/Hz(10kHzオフセット、キャリア信号が1GHzのとき)に抑えた。価格については、これまで同社が提供していたミリ波対応のスペクトラムアナライザは価格が900万円からだったのに対して、今回発売した機種は570万円からである。「ここ数年、ミリ波デバイスの用途のすそ野が広がっている。価格を大幅に下げたことで、ミリ波デバイスの研究開発から量産工程の検査に至る、幅広い用途に対応した」(同社)(関連記事:ミリ波のすそ野が広がる、市場をけん引する3つの要因)。
アジレント・テクノロジーは、ミリ波対応のスペクトラムアナライザ「8564E/8565E」を1993年に製品化したのを皮切りに、2001年には「E4446/E4447/E4448A PSA」、2011年には「N9030A PXA」と、高精度のスペクトラムアナライザを継続的に市場投入してきた(関連記事:「ミリ波帯の測定限界を押し上げる」、アジレントのハイエンドスペアナが50GHzに対応)。ただ、いずれの機種も高性能を追及しており、価格は900万円からに据え置いたままだった。これに対して今回のN9010A EXAシリーズは、高性能を追及した8564E/8565Eとほぼ同等の性能を実現しつつ、従来の60%程度の価格に相当する570万円からに引き下げた。
一般に、ミリ波という極めて波長の短い電磁波を取り扱うのは、そう簡単ではない。波長が短いためにコネクタの挿入損失やミキサーの変換損失、ケーブルなどでの伝搬損失といったさまざまな損失要因がある。さらに、対応する周波数を上げつつ、位相雑音を低く抑えようとすると局部発信器の特性に対する要求が厳しくなる。
このように技術的なハードルの高いミリ波領域に対応しつつ、価格を削減できた理由は2つある。1つは、ミリ波に対応したハイエンドのスペクトラムアナライザであるN9030A PXAの開発資産を活用したこと。例えば、「フロントエンドコンバータ」や「スイッチ/プリアンプ」、「プリセレクタ」といった高周波部品において、PXAのコア技術を転用しつつ、価格を抑えられるように部品点数を減らすなどの改良を施した。もう1つは、同社の「X series Platform」を採用したことである。2006年から利用しているこのプラットフォームを利用しつつ、高周波処理部分だけを置き換えることで開発コストを抑えた。
アジレント・テクノロジーのスペクトラムアナライザの現在の製品ラインアップとしては、ハイエンド側から、PXAシリーズ、MXAシリーズ、EXAシリーズ、CXAシリーズという4つを展開している。これまで、PXAシリーズだけがミリ波測定に対応したが、今回購入しやすい価格帯であるEXAシリーズも新たに対応したことになる。
今回発売したN9010A EXAシリーズの測定周波数の上限は、44GHzまたは32GHz。既に販売および出荷を開始している。価格は、44GHz機が前述の通り約570万円から、32GHz機が約405万円から。同社製のミキサーを外付けすれば110GHzまで、Virginia Diodes(VDI)のミキサを使えば1.1THzまで測定範囲を広げられる。
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