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無効電力を有効利用するLED照明(回路設計編)Wired, Weird

安価なLED照明は、おいしい部分(AC90V以上)でしか電力を消費しない。これが高効率の秘密だ。そのため、より多くの無効電力が発生してしまう。

» 2011年10月11日 08時00分 公開
[山平 豊(ホックス(HOKS)),EDN]

 効率が良いと呼ばれる電源は、一番“おいしい”部分(AC85V以上の領域)で電力を消費することにより効率を高めていることが多い。一方、おいしくない部分(AC85V未満の領域)では電力を消費しないので、電力そのものが未消化となる。効率が良いと言っても、このおいしくない部分で無効電力が生み出されているのだ。

 安価なLED照明は、この効率が良い電源よりもさらにおいしい部分(AC90V以上)でしか電力を消費しない。このため、より多くの無効電力が発生することになる。今後、LED照明の導入が進んでいくことは確実である以上、LED照明の電源の無効電力を削減するような知恵が求められるだろう。

 そこで、前回紹介した通り、無効電力を有効利用するLED照明を提案したい。

 まず、LED照明には何Vの電圧が必要になるかを考えよう。例えば、12個の白色LED素子を直列に接続したLEDストリングの場合、この白色LEDのVFを3.2Vとすると、LEDストリング部分で12×3.2V=38.4V、周辺の回路を入れても45Vの電圧があれば十分である。AC電源の低い電圧からDC45Vを生成するには、整流電圧がDC50V〜55Vの時に電解コンデンサへの充電を行い、それ以上の電圧では電解コンデンサへの充電を止めればよい。このような動作をする電源回路を用いることで、無効電力を有効利用できるようになる。

 この電源回路は、安価なLED照明のものと比べて、2個のトランジスタ(制御トランジスタと電力トランジスタ)といくつかの抵抗とコンデンサを追加している。制御トランジスタは整流電圧を監視しており、DC55V未満ではオフになるので、電力トランジスタがオンになる。このとき電解コンデンサへの充電が始まる。一方、整流電圧がDC55V以上になると、制御トランジスタがオンになって、電力トランジスタはオフになるので、電解コンデンサへの充電は停止する。

図1 無効電力を有効利用するLED照明の回路図 図1 無効電力を有効利用するLED照明の回路図 

 図1に、この電源回路を用いたLED照明の回路図を示す。制御トランジスタがQ1、電力トランジスタがQ2である。図1のうち、左半分が電源部で、右半分が照明部となる。ダイオードD1〜D4はダイオードブリッジでAC100Vを全波整流する。抵抗R1、可変抵抗VR1、抵抗R2とトランジスタQ1で整流電圧を監視し、Q1は電圧が低い時にオフ、高い時にオンになる。Q2はFETで、Q1がオフの時に、抵抗R3を介した整流電圧がゲートに印加されてオンになるので、電解コンデンサのC2とC3への充電が行われる。Q1がオンになるとQ2のゲートに電圧が印加されなくなるので、Q2がオフになって充電が停止する。

 コンデンサC1は入力側からのノイズに対応するためのものである。C2とC3の間にある抵抗R5は、充電時に発生する突入電流を小さくするために用いる。赤い点線で囲んだ部分は過電圧時の安全回路で、過電圧検知時にサイリスタSCRをラッチさせ、Q2をオフにして充電を停止させる。

 照明部の回路に組み込まれているトランジスタQ3、Q4と抵抗R6、R7は約20mAの定電流回路である。トランジスタQ5〜Q7と抵抗R8〜R10はベース電圧を共通にしたミラー回路となっており、定電流回路からの電流をLEDストリングに流す。

 このLED照明の回路において鍵になるのがFETであるQ2の選択である。耐圧が高く、ゲートしきい値電圧が低いFETがベストで、定格電力も大きい方が良い。ゲートしきい値電圧が高いとFETの消費電力が大きくなり、LED照明の効率が下がる。さまざまなメーカーのFETをこの回路に適用してみたところ、東芝の「TK8A25DA」が最も良好な特性が得られた。なお、制御トランジスタのQ1は、60V程度の監視電圧でオンになるので、耐圧70V程度の安価な小信号トランジスタでも十分に要件を満足する。

図2 DC電源の出力電圧と整流電圧の波形 図2 DC電源の出力電圧と整流電圧の波形  黄色の波形がDC電源の出力電圧で、水色の波形が整流電圧である。

 図2に示したのは、図1の回路のDC電源出力と整流電圧の波形である。DC電源の出力電圧の波形である黄色の波形は、充電時のDC48.8Vから放電してDC33.6Vまで下がっている。水色で示す整流電圧の波形が落ち込むDC45V付近で1回目の充電が行われ、整流電圧が上昇する50V〜55Vのときに2回目の充電が行われている。コンデンサC3の容量を大きくすれば、最小電圧が高くなるので充電回数は1回になる。

 この回路を用いたLED照明は以下の4つの特徴を備えており、応用の余地は大きい。

  • 照明のチラツキが起こらない(コンデンサC3を取り外すとチラツキが発生する)。
  • 明るさを可変抵抗VR1で制御できる。
  • ユニバーサル電源である(AC60VからAC250Vまで使用できる)。
  • Q1と並列の位置にセンサーを追加することで、簡単にLED照明のオン/オフ制御が行えるようになる。

 なお、このLED照明の回路は、AC100Vを非絶縁で使用している。このため、プリント基板の調整や絶縁を慎重に行わないと、コンデンサの破裂や抵抗の焼損、漏電が発生してしまう。次回は、この回路の具体的な調整方法と、試作したLED照明に用いたセンサー回路などについて紹介する。


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