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交流を直流に変換する「AC-DC電源」のきほんいまさら聞けないAC-DC電源入門(3/3 ページ)

» 2015年03月26日 11時00分 公開
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AC-DC変換方法 その2『スイッチング方式』

 スイッチング方式には、トランスを使用するコンバータ(主に絶縁タイプ)とインダクタ(コイル)を使用するコンバータ(非絶縁タイプ)がある。

 トランスを使用する絶縁タイプの代表的な回路構成、各部の概略波形を図2に示す。この方式では、【1】AC電圧を直接、整流・平滑を行い、一度、DC電圧を生成する。次に、【2】このDC電圧でスイッチング素子をON/OFF(スイッチング)することによりチョッピング(切り分け)を行い、高周波トランスを介して2次側にエネルギーを伝達する。この時のON/OFF周波数(スイッチング周波数)は、例えば100kHzなど、入力電源周波数(50/60Hz)に比べて高い周波数を使い、図2のような方形波のAC電圧に変換する。【3】この高周波のAC電圧を高速の整流ダイオードで整流後(ここでは1つのダイオードを使った半波整流)、出力コンデンサで平滑してDC電圧を生成する。このDC電圧は、制御回路部にてPWM制御(詳細は後述)などによって任意の設定電圧として出力される。

 整理すると、AC電圧をそのまま整流・平滑してDC電圧に変換し、そのDC電圧を再度高周波のAC電圧に変換して、再び整流/平滑して所望のDC電圧に変換するということになる。

図2 トランスを使用する絶縁タイプの回路構成と各部の概略波形

 使用するトランスは数十k〜数百kHzで動作する高周波タイプで、スイッチングトランスなどと呼ばれる。基本的な構造は先のトランス方式のトランスと同じだが、コアは高周波用途のフェライトが一般的である。

 1次側の部品(ブリッジダイオード、入力コンデンサ、スイッチング素子)はAC入力電圧(AC100VやAC230Vなど)に対応した仕様のものが必要になる。また、スイッチング素子はスイッチング電源用のMOSFETが主流である。

 2次側の整流ダイオードは高速スイッチング用のFRD(Fast Recovery Diode)やSBD(Schottky Barrier Diode)、出力コンデンサはスイッチング電源用の低インピーダンスタイプの電解コンデンサが一般的である。

 出力電圧を安定にする制御回路はトランジスタやオペアンプ(OP-Amp)などの個別素子を使用して構成すること(ディスクリート構成)も可能だが、安定化制御はもちろん、さまざまな保護機能も備えていることから、最近では電源ICを使用することが多くなっている。

 インダクタ(コイル)を使用する非絶縁タイプ(降圧)の回路構成、各部の概略波形を図3に示す。

図3 インダクタンス(コイル)を使用する非絶縁タイプ(降圧)の回路構成と各部の概略波形

 この方式では、【1】AC電圧を直接、整流・平滑を行い、一度、DC電圧を生成する。次に、【2】このDC電圧でスイッチング素子をON/OFFすることによりチョッピング(切り分け)を行う。この時のON/OFF周波数は、例えば100kHzなど、入力電源周波数(50/60Hz)に比べて高い周波数を使い、図3のような方形波のAC電圧に変換する。具体的には、ON時にインダクタを介して負荷に電流が流れ、インダクタにもエネルギーが蓄積される。OFF時にインダクタに蓄えられたエネルギーがダイオードを通して負荷に供給される。【3】この高周波のAC電圧を整流・平滑してDC電圧を生成する。このDC電圧は、制御回路部にてPWM制御などによって任意の設定電圧として出力される。

 ここで、代表的な制御方法であるPWM方式において、スイッチングによりDC電圧を降圧する仕組みを紹介する。PWMはPulse Width Modulation(パルス幅変調)の略で、周期(周波数)を一定としてONとOFFの時間、つまりデューティサイクルを調整する制御方法である。図4にPWM方式のイメージを示す。

図4 PWM方式のイメージ

 例えば100VDCをPWMでスイッチングすると、ON時間を一周期の25%で切り分けた場合、これを整流・平滑、つまり平均化すると、電圧は25%、25VDCになるというイメージである。同様に、50%、75%にした場合には、それぞれ50VDC、75VDCとなる。

 実際にはDC-DC変換は電力変換であり、変換効率を加味しなければならず、図のようにちょうどにはならないが、このような原理に基づいている。

まとめ

 AC-DC電源はこれまで電気製品の性能や機能に直接、かかわることが少なく、あまり日の目を見ることはない存在だった。しかし、最近は家電製品をはじめ多くの電気製品で高効率、低待機電力などが求められるようになり、その重要性が見直されてきている。電気自動車や太陽光発電など新たな分野においても優れた電源変換技術が必要になってきている。

 過去を振り返ると、現在のAC-DC電源の主流になっているスイッチング方式は約50年前から開発が始まった。この間、回路技術や部品の目覚ましい発展により、現在の高効率や小型・軽量、高品質を実現してきた。例えば、半導体部品に関しては、スイッチング素子がバイポーラトランジスタからMOSFETへ、制御ICがバイポーラプロセスからCMOSプロセスへ変移し、スイッチング電源の技術発展を支えてきた。今後はさらなる高効率、低ノイズ、高耐圧などが求められ、これらを実現するために共振回路方式の普及やSiC(Silicon Carbide/炭化ケイ素)などの新しい半導体部品の活用が進んでいくであろう。

筆者 Profile

ローム LSI商品開発本部 アプリケーションエンジニア部
村上 浩幸

 ロームにて電源を中心にアプリケーションサポートを担当するとともに、電源ICの技術情報サイト「Tech Web」のコンテンツ制作も手掛けている。


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